はじめに
「ドル建ての投資信託って為替リスクがあるって聞くけど、どういう意味?」
「円建てと外貨建てって、どちらを選べばいいの?」
投資を始めようと情報収集をしていると、必ず出てくるキーワードの一つが「為替リスク」です。しかし、初めて聞いた方にとっては、そもそも“何がリスクなのか”すら分かりづらいですよね。
この記事では、投資初心者がよくつまずく「為替リスク」について、基本的な考え方から円建て・外貨建ての違い、実際に起こり得る損益の例まで、できるだけ分かりやすく解説していきます。
為替リスクとは何か?
為替リスクとは、「外国通貨と日本円の為替レートが変動することで、資産の価値が変わってしまうリスク」のことを指します。
たとえば、あなたが1ドル=100円のときに米国株を購入し、その後1ドル=120円になれば、円換算での価値は増えます。逆に、1ドル=90円になれば、円換算では損をしてしまいます。
つまり、為替の動きによって、投資の損益が左右されてしまうのが為替リスクなのです。
円建てと外貨建ての違い
円建てとは
円建てとは、円で購入・評価・換金される金融商品のことです。為替レートの影響を受けない(または受けにくい)ため、為替リスクがない、あるいは非常に小さいのが特徴です。
たとえば、国内株式や円建ての投資信託、定期預金などが該当します。
外貨建てとは
外貨建てとは、外国の通貨で取引される金融商品のことです。米ドルやユーロなどでの投資が一般的で、主に外国株式、外国債券、外貨預金、外貨建て保険などが含まれます。
当然、為替レートの変動により、円に換算した時の価値が上下します。
よくある勘違い:為替リスクがあると必ず損をする?
初心者が誤解しがちなポイントとして、「為替リスク=必ず損をするリスク」と思い込んでしまうケースがあります。
実際には、為替の動きによってプラスにもマイナスにもなり得るものです。
たとえば:
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ドル建てで購入した米国株が10%値上がり
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同時に円安が進み、為替も10%上昇
→ 合わせて20%の円換算での利益になることも
逆に:
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米国株が10%上昇しても
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円高が10%進行すると
→ 円換算の価値は±0、あるいはマイナスになる場合も
つまり、為替は味方にも敵にもなり得るという点を理解することが大切です。
実例で理解する:為替の変動と投資成果の関係
ケース1:米国株が上がり、円安が進んだ場合
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投資:1,000ドル分の米国株(1ドル=100円のとき、10万円)
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株価:1,000ドル → 1,100ドル(10%上昇)
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為替:1ドル=100円 → 110円(円安)
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結果:1,100ドル × 110円=121,000円 → 円換算で21%の利益
ケース2:米国株は上がったが、円高になった場合
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株価は同じく10%上昇(1,000→1,100ドル)
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為替:1ドル=100円 → 90円(円高)
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結果:1,100ドル × 90円=99,000円 → 損失(1%)
株式リターンは為替リスクよりも大きい:S&P500と全世界株式の実例
為替リスクが怖くて海外資産を敬遠してしまう方もいますが、長期投資の視点に立つと、多くの場合「株式リターンの方が為替の影響を上回る」傾向があります。
S&P500とドル円の過去30年
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S&P500指数(1993年末 → 2023年末):466.45 → 4,769.83(約10.2倍)
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ドル円為替レート:115円 → 140円(約21.7%の円安)
円建てで30年前に1万円投資していたら?
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1万円 ÷ 115円 ≒ 86.96ドル
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S&P500当時の価格466.45ドル → 0.1864単位購入
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2023年:0.1864 × 4,769.83 ≒ 889.05ドル
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円換算:889.05ドル × 140円 ≒ 124,467円
→ 約12.4倍に増加
為替レートは20%ほどの変動でしたが、株式そのものの上昇幅(約10倍)に比べると、影響は小さめです。
つまり、為替は一時的に損益を左右するかもしれませんが、長期で見れば株価リターンの方がはるかに大きく影響することがわかります。
外貨建て商品の例と為替リスクの影響
外貨建て保険
高金利が魅力ですが、円高時に解約すると損失が出ることも。また為替手数料や途中解約リスクもあります。
外貨預金
金利は高い傾向ですが、スプレッド(為替手数料)が大きく、短期での利ザヤ狙いは難しいことも。
また、外貨建て預金での利益は雑所得となり、確定申告が必要になります。一方で外国株式や債券は証券会社で特別口座を開いていれば、ややこしい税金関係は証券会社のほうでやってくれているというメリットもあります。
外国株・債券
中長期で成長を見込む投資。為替の影響はありますが、株式のリターンがそれを凌駕するケースも多いです。
為替リスクを避ける or 受け入れる?
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避けたいなら:円建ての全世界株式ファンドや為替ヘッジ付き商品
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受け入れるなら:米国株・外貨建てETF・インデックスを長期で保有
長期投資では、為替の影響も投資の一部と捉え、コツコツ積み立てていく姿勢が大切です。
為替ヘッジ付き商品とは?メリットと注意点
為替ヘッジ付きの商品とは、為替の変動による影響を抑える仕組みを持った金融商品のことです。主に投資信託やETFで見られ、投資先が海外であっても、日本円に換算したときの価格変動をできるだけ安定させるために「為替ヘッジ(為替取引による損益調整)」が行われます。
メリット:
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為替変動の影響を抑えられる
→ 円高になっても、資産価値が大きく目減りしにくい -
基準価額が比較的安定
→ 投資リターンが為替ではなく、株式や債券の値動きそのもので決まる
注意点:
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為替ヘッジにはコストがかかる
→ 為替先物やスワップ取引によるコスト(ヘッジコスト)が運用成績に影響する -
長期投資では不利になる可能性も
→ 為替が有利に動いても、そのリターンを得られない -
常に完全にヘッジされるわけではない
→ 市場環境により“部分ヘッジ”の場合もある
どんな人に向いているか?
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「外貨資産は持ちたいけど、為替の影響は最小限にしたい」
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「中短期で投資する予定で、為替のブレが怖い」
このような場合、為替ヘッジ付き商品は選択肢になります。
ただし、長期で海外株式の成長に賭けるなら、ヘッジなしの方がトータルリターンが高くなるケースも多いため、目的に応じて選ぶことが大切です。
まとめ:為替リスクは怖がらず、理解して味方につけよう
為替リスクは、たしかに資産の価値を左右します。ですが、それは「損をする仕組み」ではなく「ブレ幅をもたらす要因」にすぎません。
そして、株式市場の成長は、為替リスクを上回るだけのリターンを生み出してきた実績があります。
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為替リスクは“学べば怖くない”
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リスクは“避けるもの”ではなく“理解して使うもの”
まずは少額からでも、実際の値動きを体験してみてください。知識と経験が、未来の資産形成をしっかり支えてくれます。
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